未来へつむぐ工作・アート用品:忙しい親のための環境と子どもにやさしい選び方
はじめに:創造性と未来を育む工作・アート用品選び
日々子育てに追われる中で、お子さまと一緒に絵を描いたり、ものづくりを楽しんだりする時間は、親にとっても子どもにとってもかけがえのないひとときです。こうした活動は、お子さまの創造性や表現力を育む上で非常に重要です。
しかし、絵の具やクレヨン、粘土といった工作・アート用品の素材や製造過程について、ふと立ち止まって考えたことはあるでしょうか。お子さまが直接触れるものだからこそ、安全性はもちろん、その商品がどのように作られ、最終的にどうなるのか、つまり環境や社会にどのような影響を与えるのかが気になり始める方もいらっしゃるかもしれません。
「でも、そんなことまで考えて選ぶ時間なんてない」「 ethical な商品はお高そう」と感じるかもしれません。この記事では、そうした忙しい親御さまのために、お子さまの未来のためになるような、環境にも子どもにもやさしい工作・アート用品を選ぶヒントを、無理なく日常に取り入れられる形でご紹介します。
倫理的な工作・アート用品選びとは
倫理的な消費は、単に商品の機能や価格だけでなく、その商品が作られる過程で人権や労働環境が守られているか、環境に配慮されているか、そして使い終わった後に環境負荷が少ないかといった点にも目を向ける考え方です。これを工作・アート用品に当てはめて考えてみましょう。
- 素材の安全性と環境負荷: 自然由来の原料(植物性顔料、蜜蝋、天然ゴムなど)を使っているか、人体に有害な物質(重金属、石油由来の溶剤など)が含まれていないか。生産過程での環境汚染(排水、排気)は少ないか。
- 製造過程: 児童労働や不当な労働環境で作られていないか。
- 製品の耐久性と廃棄: 繰り返し使えるデザインか。使い終わった後の分別やリサイクルは容易か。パッケージは過剰でないか、リサイクル可能な素材か。
これらの点をすべて完璧に満たす商品を見つけるのは難しいかもしれません。だからこそ、「できる範囲で、少しずつ」が大切な姿勢となります。
忙しい毎日で実践できる手軽な始め方
「倫理的な工作・アート用品」と聞くと、特別な専門店に行かなければならないようなイメージを持つかもしれませんが、そんなことはありません。まずは、いつもの買い物の際に少しだけ意識を変えることから始めてみましょう。
- まずは一つのアイテムから: 一度にすべてを変える必要はありません。例えば、「次に絵の具を買うときは、天然由来のものを探してみよう」とか、「粘土は米粉や小麦粉が主原料のものを選んでみよう」といったように、お子さまがよく使う、あるいは買い替えのタイミングが来た一つのアイテムから意識してみるのがおすすめです。
- パッケージの表示をチェック: 商品の裏側やパッケージに書かれている情報を少しだけ見てみましょう。「自然由来成分使用」「無毒」「リサイクル素材」「〇〇認証取得」といった表示がないか探してみるだけでも参考になります。
- メーカーの情報を調べてみる: 気になる商品やブランドがあれば、スマートフォンの検索機能で簡単に調べられます。「〇〇(ブランド名) 環境への取り組み」「〇〇(ブランド名) 安全性」といったキーワードで検索すると、メーカーのウェブサイトなどで情報を公開している場合があります。
具体的なアイテムと選び方のヒント
子育て世代になじみ深い工作・アート用品について、具体的な倫理的な選択肢と選び方のポイントをご紹介します。
- 絵の具・クレヨン:
- チェックポイント: 顔料の安全性(重金属フリーなど)、バインダー(糊材)の安全性、溶剤の種類(水性か、有害な有機溶剤を含まないか)、自然由来成分(蜜蝋、植物性顔料など)の使用。
- ヒント: 「無毒性(Non-Toxic)」や「APマーク(Arts & Creative Materials Instituteによる安全基準適合マーク)」が表示されているものを選ぶと安心です。さらに環境負荷を考えるなら、天然素材で作られたものや、詰め替え可能なタイプを探してみましょう。
- ねんど:
- チェックポイント: 主原料(小麦粉、米粉、寒天、天然鉱物など)、防腐剤の種類(天然由来か)、添加物の安全性。
- ヒント: 米粉ねんどや小麦粉ねんどは、万が一小さなお子さまが口にしても安全性が高いとされています。石油由来の油粘土よりも、自然素材を主原料としたものが環境負荷が低い傾向にあります。硬くなったら水分を加えて再利用できるタイプや、土に還りやすい素材のものもあります。
- 紙:
- チェックポイント: 森林認証(FSC認証、PEFC認証など)を受けているか、再生紙の使用率、無漂白か、インクの種類(植物油インクなど)。
- ヒント: FSC認証紙は、適切に管理された森林の木材から作られていることを示します。古紙パルプ配合率の高い再生紙を選ぶことも環境負荷低減につながります。スケッチブックや画用紙を選ぶ際に意識してみてはいかがでしょうか。
- のり・ボンド:
- チェックポイント: 主成分(天然素材か、化学物質か)、有機溶剤の使用(できるだけ含まないものを選ぶ)、安全性(ホルムアルデヒドなどの有害物質を含まないか)。
- ヒント: でんぷんを主成分とした固形のりや液体のりは、安全性が高くおすすめです。木工用ボンドなども、成分表示を確認し、できるだけ環境負荷の少ないものを選びましょう。
具体的な商品・ブランド例(例示として)
例えば、ドイツのシュトックマー社の蜜蝋クレヨンは、ミツバチの巣から採れる蜜蝋と食品規格に合う厳選された顔料で作られており、高い安全性と美しい発色が特徴です(あくまで例示であり、推奨や優劣を示すものではありません)。また、国内メーカーでも、米粉を主原料にしたねんどや、再生紙を使った画用紙など、環境や安全性に配慮した商品は増えています。オンラインショップやオーガニック製品を扱う店舗、最近では大型の文具店や量販店でも取り扱いが見られるようになってきました。
価格に関する懸念について
倫理的な商品、特に自然素材やこだわりを持って作られた商品は、一般的な商品に比べて価格がやや高い傾向があるのも事実です。しかし、すべての倫理的な商品が高価なわけではありません。
例えば、再生紙の画用紙は手頃な価格で見つかることもあります。また、少しいいものを買って長く大切に使うという視点を持つことも倫理的な消費の一つです。使い捨ての安価なものを頻繁に買い替えるよりも、質の良いものを修理したり手入れしたりしながら使う方が、結果的に経済的であり、地球への負荷も減らせます。
まずは、手の届きやすい価格帯のアイテムから試したり、セールやアウトレットを利用したりするのも良い方法です。
まとめ:未来への一筆を、できることから
子どもたちの創造性を育む工作やアートは、日々の暮らしに彩りを与えてくれます。その際に使う道具を選ぶことは、単に使い勝手や見た目だけでなく、お子さまがこれから生きていく未来の環境や社会に思いを馳せる機会にもなります。
完璧を目指す必要はありません。まずは、お子さまが使うものの一つに、少しだけ立ち止まって考えてみる。パッケージの表示をチェックしてみる。そんな小さな一歩から始めてみませんか。
お子さまが安心して使える安全な素材を選んだり、環境に配慮した商品を選んだりすることは、未来の地球への小さな投資です。それは、お子さまが大人になったとき、豊かな自然の中で、そして公正な社会の中で、自身の創造性を存分に発揮できる未来へとつながっていくはずです。日々の忙しさの中でも、できる範囲で、楽しみながら、お子さまと一緒に未来へつむぐ買い物を取り入れていただければ幸いです。